先日、『アルプスの少女ハイジ』のアニメを全話観る機会がありました。
今までまともに『アルプスの少女ハイジ』を観たことがなかったのですが、初めて観た感想として気になった点があったので、以下で書き上げていきたいと思います。
ハイジがデーテおばさんに連れられアルムの山にやってきたのは5歳で、季節は夏頃でした。
そして描写上2回目の冬を迎えた際に、ハイジの年齢はなぜか8歳となっているのです。
夏から数えて2回目の冬は約1年半後のはずで、誕生日のタイミングをいくら考慮しても人は1年半で3歳年を取ることは不可能です。
この問題について自分は当初、1話の出来事が春先(例えば4月頃)で、デーテおばさんがハイジを迎えに来た18話が5月ぐらいなら、時間経過は2年を超えるので誕生日のタイミングが合えば3歳年齢を重ねることが可能だと考えました。
冬の時点て8歳という発言をしていたことは、『今年で8歳』みたいな意味だと解釈すれば、なんとか辻褄が合います。
しかし、ハイジが山に来た初日(2話)の時点でおじいさんは『夏の間は日が長い』と季節的に夏が始まっていることを示唆し、デーテおばさんがハイジを迎えに来たときは、まだ雪が残るなど春の始まりだったと思われるので、2年は経過しておらずハイジが3歳年をとることは不可能なのです。
デルフリ村 | 実在するロフェルスという村がモデルとされる架空の村 モデルの場所は標高約620mだが作中ではマイエンフェルトより数百メートル登った位置にあるとされる ハイジの生まれ故郷 |
アルムの山(おじいさんの山小屋) | デルフリ村の先にある山小屋 モデルはオクセンベルクにある山小屋で標高約1100m |
マイエンフェルト | 実在するスイスの町 標高約500mでデルフリ村のモデルから直線で1km程度 |
ラガーツ温泉 | 実在するスイスの温泉街(バート ラガツ) 標高約520mでマイエンフェルトから直線で2km程度 マイエンフェルトの川(ライン川)向うにある ハイジが最初にいた場所 |
フランクフルト | 実在するドイツの都市 マイエンフェルトから直線で350km |
具体的な話数を追って、このアルプスの少女ハイジの時間経過を確かめていきたいと思います。
まず、1話でハイジはかなりの厚着をして山に来ますが、途中で暑くなって肌着になってしまいます。
つまり、この時期は暑さと寒さが微妙な季節ということであり、それは春か秋しか考えられないのですが、おじいさんの発言とその後の描写から、この時期が春の終わりから夏の始まりであるとほぼ確定することが可能です。
その後ハイジは半袖となり、2話から7話にかけて夏のエピソードが描かれ、8話では拾った鳥(ピッチー)が別の地に渡っていったり木の実を拾うなど秋のエピソードが描写されます。
9話では雪が降って一気に冬となり、12話までアルムの山は雪で覆われていました。
13話でアルムの山は春になり、ハイジは再び渡ってきたピッチーと同じ種類の鳥を見てピッチーだと発言したり、牧場の様子が去年と同じであることに感動するなど、1年目の冬越し(初めての春)であることが示されています。
14話と15話では、ヤギのユキちゃんが大きくならずに乳が出ないため処分されそうになるというエピソードが語られ、16話では再び銀世界の景色となります。
この16話から、ハイジが8歳という話が出てくるのです。
17話では、雪が解けて春になり牧師がハイジの学校の件でおじいさんの家にやってきます。
それから幾日もせずにデーテおばさんがハイジを迎えに来て、そのままハイジをフランクフルトに連れて行ってしまいます。
この際、ハイジはゼーゼマンさんの屋敷で自身の年齢を8歳とハッキリ言っているので、『今年で8歳』などの意味ではなく実年齢として8歳なのだと思われます。(これ以前からナレーションでハイジが8歳であると明確に述べられている)
以上のように、2回目の冬の描写で5歳だったハイジは8歳になっているのです。
冒頭で示した通り、夏から数えて2回目の冬で3歳年をとることは不可能なので、アルプスの少女ハイジは作中どこかで1年話が飛んでいることになります。
よくよく確認してみると、16話の冒頭で『アルムの山小屋でハイジは3度目の冬を迎えました』とのナレーションが入っていました。
冬の描写は2回目なのに3度目の冬と言っているので、ここで1年話が飛んでいるのだと思われます。
しかし、これがとても分かりづらいのです。
まず、15話で夏が終わって、16話の冒頭で秋から冬になる背景描写が数秒流れて冬の話が始まっているので、普通にその年の冬のように感じてしまいます。
もっと分かりづらいのは、14話から16話までの描写です。
14話と15話で、ヤギのユキちゃんが大きくならずに乳の出が悪いため処分されそうになり、ハイジとペーターが良い草を食べさせてなんとか処分を1年持ち越されるエピソードが語られます。
次の16話でハイジとペーターがそのユキちゃんを心配して様子を見に行った際は、まだユキちゃんが大きくなっておらず乳の出もイマイチであることが語られるなど、話が一気に1年以上進んでいるとは到底思えないような描かれ方をしているのです。
制作陣が15話と16話の間で1年以上経過していることをちゃんと把握できていない可能性すら考えられるほど、この間の時間経過は微妙となっています。
しかし5歳だったハイジが8歳になっている以上、ここで1年以上話が飛んでいるがとしか考えられません。
ひょっとしたら13話と14話の間で1年が経過しているのかもしれませんが、だとしたら説明が一切なく不親切すぎます。
原作を読んでいないので明確なことは言えませんが、本来なら一気に2年ぐらい話が飛ぶところに、ユキちゃんの処分騒動というアニメオリジナルエピソードを入れたため作中の時間描写がおかしくなっているのかもしれません。
では、アルプスの少女ハイジにおける時系列を表にしてまとめます。
時系列 | エピソード(話数) | ハイジの年齢 |
1年目の晩春~初夏 | ハイジがアルムの山にやって来る(1話) | 5歳 |
1年目の夏 | ハイジが山の牧場に行く(2話~7話) 小鳥のピッチーを拾う(4話) | 5歳 |
1年目の秋 | 渡り鳥だったピッチーが旅立つ(8話) 山で栗や山葡萄を採る(8話) | 5歳 |
1年目の冬 | ハイジの服が長袖になる(9話) 山が雪に覆われる(9話~12話) | 5歳~6歳 |
2年目の春先 | 雪が解けてヤギの放牧が再開(13話) | 6歳 |
2年目の春~晩夏 | 乳の出が悪いユキちゃんに良い草を食べさせる(14話~15話) | 6歳 |
ナレーションベースで1年以上が経過(16話冒頭) | ||
3年目の冬後半 | ハイジが学校に通っていないことが村で噂になる(16話) | 8歳 |
4年目の春先 | 雪が解け牧師が山小屋を訪ねてくる(17話) ハイジがフランクフルトに連れて行かれる(18話~19話) | 8歳 |
4年目の春~夏 | ハイジがフランクフルトで生活し病気にかかる(19話~33話) | 8歳 |
4年目の夏 | ハイジがアルムの山に帰って来る(34話) ハイジがアルムの山で回復(35話~37話) | 8歳 |
4年目の晩夏 | シロが子山羊を産む(37話) | 8歳 |
4年目の秋 | おじいさんが村の古い教会を手直しする(38話) | 8歳 |
4年目の冬 | ハイジが村の学校に通いはじめる(38話~39話) | 8歳~9歳 |
5年目の春先 | クララがアルムの山に行けないことを抗議する(40話) | 9歳 |
5年目の春 | クララのお医者さんがアルムの山にやって来る(41話) | 9歳 |
5年目の晩春~初夏 | クララがアルムの山へやって来る(42話) | 9歳 |
5年目の夏 | クララがアルムの山で生活し健康になっていく(43話~51話) | 9歳 |
5年目の晩夏 | クララが伝え歩きができるようになる(51話) クララがフランクフルトへ帰る(52話) | 9歳 |
5年目の秋 | クララがフランクフルトへ帰ってすぐ秋を迎える(52話) | 9歳 |
5年目の冬 | ハイジとペーターがクララが戻ってくることを待ちわびている(52話) | 9歳~10歳 |
・デーテがハイジをアルムの山に連れてきた際(晩春から初夏)に、ハイジが5歳になったばかりと発言しているのでハイジの誕生日は2月から5月程度と思われる。(2話)
・ハイジが山に来て3度目の冬(明確な時期は不明)の時点で8歳になっている。(16話)
以上のことを踏まえると、ハイジの誕生日は冬の後半と考えられます。
そう考えた場合、ハイジは冬の始まりの時点で7歳なので学校へ行く必要はないような気もしますが、日本の学校で早生まれの人がいるように、学校に行くタイミングには独自の取り決めがあるものと想定されます。
18話以降も、時系列順に解説していきます。
18話でデーテおばさんがハイジを迎えに来たときにアルムの山にはまだ雪が少し残っており、春先であることが分かります。
ハイジがフランクフルトにいる間は季節が変わっている様子はなく、一貫して春から夏のような描写でした。(冬になっていないことは確実)
34話でハイジがアルムの山に戻ってきた際、ハイジは初めて山に来たとき(1話)と同じように途中で服を脱いでしまうので、季節も同じような時期と想定されます。
37話でヤギのシロが出産をしていますが、本来ヤギの出産は春先です。
しかし、これは必ず春先と決まっているわけではないようです。
ヤギの妊娠期間は約150日でシロの出産が8月の終わり頃と思われるので(出産後しばらくして秋になったとのナレーションが入る)、雪が解けて放牧が開始された直後の3月終わりに種付けされたと考えれば一応辻褄は合います。
38話の冒頭で、おじいさんが古い教会を手直ししている間に秋が過ぎたことが説明され一気に冬になり、ハイジらは冬の間デルフリ村で生活して学校へも通うようになりました。(このことから37話までが夏であることが確定する)
クララがアルムの山にやって来る経緯は、
・冬が明けてハイジたちは山に戻り、再び山の生活が始まる(40話)
・そのことが書かれた手紙を読んだクララは山へ行きたいとの思いが募る(40話)
・しかしロッテンマイヤーさんに受け入れられず、クララは食事を食べずに抗議する(40話)
・仕方がないのでゼーゼマンさんに連絡を入れて、ゼーゼマンさんが家に帰ってくる(40話)
・ちょうど休暇をとっていたお医者さんを半ば強引にアルムの山へ下見に行かせる(40話)
・お医者さんがアルムの山に到着し現地調査を行う(41話)
・クララに対してアルムの山へ行く許可が出る(42話)
・ラガーツの温泉でしばらく療養した後、ついにクララがデルフリ村にたどり着く(42話)
・クララは村への訪問翌日から山小屋で暮らし始める(43話)
以上のような経過から、クララがアルムの山に到着するまでに、晩春から初夏ぐらいまで季節は進んでいたと思われます。
そして最終回(52話)でクララが帰ってすぐに秋になったとナレーションが入るので、クララが夏の終わりまでアルムの山で過ごしていたことがわかります。
最後の場面はハイジが山に来てから5回目の冬(描写されたのは4回)ですので、アルプスの少女ハイジは作中おおよそ4年半の時間が経過したということです。
時系列はこれであっていると思うのですが、矛盾も多々あります。
まず、ユキちゃんが処分騒動から1年以上大きくなっていないのに、ハイジがフランクフルトに行っていた2~3ヶ月で一気に大きくなり赤ちゃんまで産んでいるのです。
3年目の冬(16話)にハイジとペーターが会いに行った際にユキちゃんはまだ小さいままでしたが、このときには既に妊娠していたことになり、かなり矛盾があると言わざるを得ません。
ハイジの読み書きを覚えるスピードもかなり異常と言えます。
なぜこんなことが起きたのかというと、作中における時間経過よりも放送期間の長さ(放送回数の多さ)によってキャラクターが成長するという本末転倒なことが起きているためです。
フランクフルトでハイジが生活していた期間は15話以上かけて描かれているのですが、作中の時間経過は2~3ヶ月程度となっています。
一方、山の生活では1話で数ヶ月進むこともザラにあります。
本来は作中の時間経過をしっかり考えてキャラクターを成長させなければならないのですが、制作過程でこのことは徹底されておらず、現実世界の時間軸がキャラクターの成長に影響を与えてしまっているのです。
一気見した際は、この粗は相当目立ってしまいます。
それ以上に矛盾を感じる点はペーターの成長です。
ペーターはハイジより6歳年上なので、クララがアルムの山に来た際は15歳、最後の冬の場面では16歳になっていた可能性もあります。
ですので、本来ならおじいさんと同じぐらいの背格好になって声変わりもしているはずです。
しかし、ペーターは初登場から一貫して小学生の子どものような描かれ方をされており、精神的な成長もほとんど見られません。
第二成長期の真っ最中だったペーターよりも、ハイジのほうが外見的によっぽど成長しているのは明らかにおかしいと言えるでしょう。
アルプスの少女ハイジは、初めて日常のリアルを取り入れたアニメと言われていますが、こうやって調べると全然リアルでないことに気付きます。
当時としてはこれが表現の限界だったのか?
あるいは制作陣のレベル的にこれが限界だったのか?
理由は分かりませんが、今になって大人が初見すると(当時の懐かしさを感じずに観ると)相当トンチンカンな作品のように感じてしまいます。
以上、アルプスの少女ハイジを観る際の資料として当記事をお使いください。
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